前十字靭帯の再建と内側側副靭帯の縫合、手術後の経過とリハビリ

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右膝に通称Unhappy Triadと呼ばれる複合的なけがを負い、靭帯の再建手術を受けた。膝の可動域は全回復していないが、リハビリで筋力は戻せてマラソンやトライアスロンにはいったん復帰できた。退院後のリハビリ状況についてまとめてみようと思う。

術後に使う膝専用装具

半月板手術の際は必要なかったが、前十字靭帯(ACL)と内側側副靭帯(MCL)の場合は術後に膝に装具をつける。市販の布製サポーターより強固な金属製で、膝のねじれを抑える効果がある。

膝の装具を着用した状態

12万くらいかかる医療器具だが、お世話になるのはせいぜい1か月程度。介護用品のようにレンタルしたり、中古品が流通していれば助かる。しかし肌に触れるものだし、微妙なサイズ調整もあるので転売できる気がしない。

通販で安い装具も売られているので、ひょっとするとクライアント支給品でよかったのかもしれない。

けがした直後にシーネ固定から切り替えるため、病院で用意してもらった装具は米国medi社製のM.4s Comfortという製品。一般に普及しているのはシグマックスのドンジョイという製品だが、こちらの方が樹脂フレームに模様が入っていてかっこいい。屈曲・伸展角度を細かく調整できる機能までついている。

medi M.4s Comfort

他に病院で見かける装具は、CBブレースやBREGなど。medi製は一度もかぶることがなく、リハビリの先生からもめずらしがられた。ただし治療が進むとまったく使う機会がなくなるのは残念だ。装具や杖に頼りすぎると、脚に筋肉がつかずリハビリにならない。

膝の治療で松葉杖が取れた直後は、混雑する電車に乗ったり駅を歩いたりするのが怖い。安定して歩けるようになるまでは、装具や杖を使ってまわりに「けが人」とアピールした方が安全だ。

入院中・退院後の生活

ACL・MCL手術後のリハビリは、ひとまず左膝の健側(実際はそちらも半月板損傷している)と同程度の筋力・柔軟性を取り戻すことが目標になる。2週間の入院中、CPMという悪魔のような機械で、少しずつ角度を増しながら屈伸運動させられる。

膝のCPM装置

その他、寝たまま脚を上げ下げする太もも・臀部の筋トレや、大腿四頭筋(内側広筋)を強化するクアドセッティングなども、入院中は毎日行う。

膝の装具を着用した状態

松葉杖はすぐに取れるが、術後6週間は歩行時に装具を利用する。段階的に「寝ている間や自宅内では装具を外してOK」と許可が出る。松葉杖だと両手でものが運べないので、家事をするのに苦労する。装具付きでもフリーハンドで歩けるのは段違いに楽だ。

毎回手術後に足を着いて歩ける日が来ると、障害が治ったようでちょっと感動する。最初は不安だが、数日も経つと筋肉やバランス感覚が戻って普通に歩けるようになる。

ただし階段を上り下りする際の違和感はなかなか取れない。段差で患側に体重を乗せると、うまく力が入らなかったり痛みが出たりする。ジョギングはできても、起伏のあるトレイルを歩くのは厳しかった。

リハビリと筋トレ

通院は1~2か月おきで、リハビリは基本的に自宅で行う。治療が進むとレッグプレスやレッグカールの機械を使う許可が下りる。これらのマシンは片足だけ負荷をかけて、ピンポイントで鍛えられるのが便利だ。脚上げやスクワットの自重筋トレでは、そこまで細かい荷重のコントロールができない。

手術を受けてから3か月後、リハビリでジョギングを行う許可も出た。最初は「1分走って1分休み×10セット」ようなスローペースで始め、少しずつ走る時間を延ばしていく。

辛抱強くジョギングを続けて、術後5か月経つと以前のように10km以上走れるようになった。そして9か月後には医師の許可も出て、フルマラソンに出場・完走できた(タイムは無理せず4時間30分くらい)。

ジョギング・スイム・ロードバイクと並行して患側の脚だけ集中的にトレーニングした結果、術後11か月目の筋力測定で健側との筋力差がほぼなくなった。

両足の筋力差測定グラフ

半月板損傷より予後は順調

半月板損傷からO脚の進んだ左膝に比べると、ACL再建した右膝の経過は順調だ。一度だけ筋トレ中に無理して腫れたが、その後は慎重になったのでトラブルは起こっていない。

右脚はまだO脚の程度が弱いおかげか、半月板や軟骨の摩耗も進んでいないように思う。自転車も漕げるしプールでも泳げる(膝を曲げる平泳ぎは厳しい)。日常生活では階段の上り下りと、たまに膝がぐらつく不安定感以外は支障がない。

ACL再建は大がかりな手術だが、症例が豊富で術式が安定しているせいか、半月板縫合に比べると予後がいいようだ。移植した腱はオリジナルの代用物に過ぎないが、前方引き出しの徒手検査を受けても動揺は少ない。

固定が不完全なMCL、損傷を繰り返す半月板に対して、ACLはほとんど完治したような錯覚を受ける。目下のところ問題は、半月板損傷から変形性膝関節症(OA)に発展した左膝の方だ。

右膝の経過に比べると左膝の方が深刻で、いったんは競技復帰したが悪化して半月板の再手術を受けることになった。長い目で見れば、ACLは復活しても徐々に半月板と軟骨が劣化して、右膝もOAに向かっているのだろう。

適度な運動という課題

この手の膝疾患は歯周病に対する歯磨きのように、保存・運動療法が推奨されている。手術(抜歯)を受けるのは、著しくQOLが低下したあとの最終手段だ。膝を使いすぎるとダメだが、まったく使わないのもよろしくない。「適度な運動」というさじ加減が案外難しい。

リハビリが進んだら、また競技に戻ることもできると思う。ただしお金を払ってレースに出ると、元を取ろうとしてつい無理してしまう癖がある(貧乏性なので一度も途中棄権したことがない)。トライアスロンの参加費・渡航費は高いので、中途半端なコンディションで出走するのはもったいない。

今後はレースの記録更新を目指さずに、何か個人的な目標でも定めてリハビリ程度のエクササイズを続けるのがいいのだろう。運動のリスクとリターンを秤にかけて、自分なりに適度な落としどころを見つけるのが課題といえる。