関節鏡・腰椎麻酔で半月板の切除・縫合手術を二度受けた感想

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ここ2年で2回受けた、左膝の半月板手術についてまとめてみようと思う。いったん良くなったとみえてマラソン・トライアスロンに復帰したが、徐々に症状が悪化して再手術を受けることになった。

傷んだ半月板を再縫合してもらう過程で、モニター越しに軟骨までえぐれている惨状を目の当たりにした。O脚化も始まって、すでに変形性膝関節症が進行している状態だ。

悪化したのは術後に負荷をかけすぎたせいでもあるし、加齢による変性も原因と思われる。確実に言えるのは、「一度痛めた半月板は元に戻らない(そしてどんどん悪くなる)」ということだ。

半月板損傷の診断

半月板が断裂しているかどうかは、マクマレーテストという徒手検査でたいていわかる。ロッキング症状が出ている状態でテストを受けると、ちぎれた半月板が挟まって痛い。

素人目にはわかりにくいが、MRI画像で白い高信号が出ているところは半月板が傷んでいる可能性がある。下の画像で左側の骨の隙間、白い筋が重なってモヤモヤしている部分が怪しい。

半月板素損傷のMRI画像

左膝のMRI画像(2回目の手術前)

これまでの経緯や自覚症状も統合して、医師の診断は垂直・水平断裂を含む複雑な半月板損傷。さすがに日常的にロックされると不便なので、相談して腰椎麻酔による関節鏡手術を受けることになった。

腰椎麻酔による関節鏡手術

膝の手術は進んでいて、今は関節鏡という胃カメラのような管を通すだけで、大きく切開せずに治療することができる。全身麻酔も選べるが、貴重な経験なのでモニターを見ながら説明してもらうのがおすすめだ。

この2年間で、左膝→右膝→左膝と3回の関節鏡手術を受けた。背骨に針を刺す腰椎麻酔はそれほどの痛みでもないが、場所が場所だけに毎回おそろしい。注射するときの姿勢によって、片脚にだけ麻酔を効かせられるのはすごい技術だと思う。

その後半日くらい下半身の麻痺を経験できるので、障害がある人の気持ちを体験できる。他人の介助がなくては、ひとりで寝返りも打てない。麻痺が長引く場合は、排泄のため尿道に管を入れられる可能性もある(さいわい3回とも経験せずに済んだ)。

「ふかひれ」から「さきいか」と化す半月板

手術中は常に膝の中に生理食塩水が流し込まれている。モニターに映る膝の内部はグレーな世界で、まるで月面探索のようだ。カラー画像なので時々黄色い脂肪も見える。スポーツをやっていたりして体内脂肪が少ないと、切開も小さくて済むらしい。

3回も手術を受けると、膝の内部はどことなく懐かしい風景に見えてくる。体内で辛抱強く体重を支えてくれた半月板が、モニターの中から「こんにちは」と挨拶してくれるようだ。

半月板の傷んだ部分は、白いイソギンチャクのようにちりぢりになっている。見た目はまるで「さきいか」のようだ。健全な方の半月板を映してもらうと、そちらはまさに「ふかひれ」。半月板が劣化すると、高級食材からチープなおつまみに変わってしまう。

2回目の手術で大きく切り取った部分を、容器に入れて記念にもらえた。中に満たされているのは食塩水で、防腐処理までは行われてはいない。それでも冷蔵庫に入れておくと保存は効くようだ。

摘出された半月板の一部

摘出された半月板の一部

将来的に自家培養の素材に使える(?)かもしれないので、しばらく取っておこうと思う。軟骨だけでなく、半月板の再生医療も進歩してくれることを願いたい。

最初の手術はall-inside縫合

初回の手術では、ロッキング症状の原因となる半月板のちぎれた部分を切除して、表面をトリミングして平滑したあと、残せる部分は糸で縫ってもらった。

モニターには大きく映っているが、実際のスケールは数ミリ単位の作業なはずだ。膝に開けた2つの穴から器具を通すだけで、手際よく内部を縫っていく技術には感嘆する。

今回は膝の内側だけで半月板を縫合する、all-insideという方法が選ばれた。術式についてはこのあたりの動画がわかりやすい。なかには針を2本通して、ひもの結び目まで自動的に作ってくれる専用装置が存在する。

靭帯再建や人工関節も含め、膝の外科手術はまるで裁縫や大工仕事のようだ。原理が単純なので、素人でも見ていてわかりやすい。

途中で一本抜けてしまったらしく、垂直断裂で2針、水平断裂で5針。合計7針、半月板を縫ってもらった。半月板自体は無感覚だが、まわりの組織に神経は通っている。そのため麻酔が切れると結構痛い。

術後は無理せず痛み止めを点滴してもらうのがおすすめだ。睡眠薬も混ぜてあるらしく、スカッと眠れる。

術後1か月は松葉杖

膝の手術は翌日から容赦なくリハビリが始まる。半月板の場合は簡単な曲げ伸ばしから始まり、徐々に筋トレに移っていく。半月板の切除だけなら治りは早いが、縫合も含む場合は術後数週間、膝にかける荷重は制限される。

靭帯手術のように装具は使わない代わりに、一か月は松葉杖を使用。途中から片方の杖だけで歩く許可も出る。片手で物が持てるようになるので、だいぶ便利だ。

初回の入院は2週間で退院できた。同じ病室の若い人は、ヘビーな靭帯手術でも自分より早く退院する場合があった。年齢的なものも含め、ひとり暮らしか、自宅に階段があるかなど、退院後の生活にもよるのだろう。

いったんは競技復帰できた

1回目の左膝半月板手術から3か月後、安定して歩けるようになったので、今度は右膝の前十字靭帯再建手術を受けることになった。そちらも入院は2週間かかったが、さすがに大手術なので装具生活もリハビリも左膝より長くかかった。

せっかく治してもらえた恩に報いたいという気持ちもあって、リハビリはがんばった。そのおかげか右膝靭帯の経過は順調で、9か月後にはフルマラソンに復帰できた。さらにショートやミドル(悪天候で距離短縮)のトライアスロンも完走して、一時的に競技復帰はかなったといえる。

しかしレース後は半月板を治療した左膝の方が腫れて痛んだ。次第に練習中も症状が出るようになり、一度腫れると一か月は膝が曲がらず、トレーニングを休みがちになってしまった。

念のためMRIを撮影してもらったが、手術後の画像は判断しにくいらしい。半月板の再断裂が疑われ、確実なのはカメラで直接内部を見ること。このまま悪化していく一方に思われたので、医師と相談して2回目の手術を受けることにした。

軟骨の損傷も確認

前回の手術から約2年後、再び関節鏡で膝の中を見てみたところ、モニターに映し出された半月板はやはり裂きイカ状態になっていた。前回all-insideで縫った糸も外れて、アンカースリーブと一緒にプラプラ漂っている。これらのパーツは、体内に吸収される素材ではないらしい。

さらにまずいことに左膝内側後方、脛骨の軟骨がクレーターのようにえぐれてしまっていた。その上の大腿骨も、軟骨の表面がささくれ立っている。O脚化が進んで半月板も失われ、軟骨同士が直接当たって削れてしまったのだろう。

血餅・骨髄液利用のフルコース

役に立たなくなった半月板の内側部分をさらに切除。血の通っている外側はまだ治癒する可能性があるので温存。2回目はinside-outという方法で皮膚を切開し、関節包の外側に縫い付けてもらえた。ちょうど右膝MCLを縫った個所と同じで、膝の内側に3cmくらいの傷ができる。

さらにダメもとで、Fibrin Clotという血餅(けっぺい)をつくって水平断裂の割れ目に挟んでもらった。麻酔後に足の甲から抜いた血を練ると、滋養に富んだ塊りができて組織の回復に使えるらしい。

さらに大腿骨に穴を開けて骨髄液を放出。これも関節内に栄養を行き渡らせて、半月板と軟骨の再生を促す治療法だ。

手術前後の半月板の状態をイラスト化するとこんな感じ。最初は複数の垂直断裂と水平断裂が組み合わさり、一部が剥離して隙間に挟まりロッキング症状の原因となっていた。2度の手術を経て、問題のある部分はごっそり取り除かれた。

半月板手術の前後

半月板の状態(左:手術前、右:手術後)

外周部に及ぶ水平断裂は、おそらく加齢による変性が原因とのこと。若いうちにスパッと切れた断裂に比べて、治りが悪いといわれる。海外の論文によると、Fibrin Clotの他に血漿や幹細胞を使った生物学的治療法もあるようだが、日本ではまだ保険適用外とのことだ。

2回目の半月板手術の後は、早めに8日間で退院。術後1か月で松葉杖は取れたが、2か月経った今も屈曲角度120度までの制限が続いている。膝を深く曲げすぎると、半月板の縫合部分に負担がかかってしまうらしい。

もう無理はしない

最初の手術で縫った部分がほどけてしまった状況からすると、負荷をかければ同じことの繰り返しになるだろう。モニター越しに手術の様子を見ながら、もう気合いや根性で何とかなる話ではないとわかってきた。

病名も変形性膝関節症と言われたので、何となくあきらめもついた。いろいろ考えて、もうハードなスポーツはしない方がいい気がする(やるのは自由だが、自分の首を絞めるだけ)。少なくともレースに復帰するのは焦らず、慎重にリハビリを続けて行こうと思う。